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『他者の言葉を語る身体のスキャンダル』プレ勉強会
【募集終了:次回開催時の連絡が欲しい方はその旨を記載の上、予約フォームからお名前とご連絡先をご登録ください】
2023年5月、カンヌ作品常連俳優であり、フランスにおける「アカデミー賞」であるセザール女優賞を2度も獲得している俳優アデル・エネル氏が34歳という若さで俳優引退宣言をし、フランスの映画界に激震が走った。#metoo運動にも精力的に参加していた彼女が、映画業界全体を告発するかたちで、抗議文を発表したのである。
今年、カナダの舞台芸術祭Festival TransAmériquesの関連イベントとして、ジゼル・ヴィエンヌ『L'ETANG』のツアー公演に出演していたアデル・エネル氏本人による『#metoo Anniversary』という講演会があった。彼女の言説で特に印象的だったのが、映画における「真実の演技」が孕む危険性であった。「迫真の演技」といわれるような、演技を超えた「真実の感情」を求めるが故に、俳優が極度のプレッシャーをかけられたり、監督から挑発されたりすることで現出する「生の」演技によるリスクである。
称賛される演技のスタイルから、演技の現場で生まれるハラスメントを考えるべく、『他者の言葉を語る身体のスキャンダル』というテーマで、ワークショップや勉強会を開いていきたいと思います。今回は、プレ勉強会ということで、私がハラスメント対策として考案する演技の捉え方及び構築プロセスの提案と、みなさんの演技に関する考えやイメージ、その演技の「形態」が助長してしまうハラスメントの可能性をリサーチしたり、参加者のみなさんと一緒に考えてみたいと思います。またアデル・エネル氏による抗議文も日本語で用意する予定です。(竹中香子)


日時:7月8日(土)18時〜21時
場所:YAU STUDIO 〒100-0006 東京都千代田区有楽町1-10-1 有楽町ビル 10F
JR山手線・京浜東北線有楽町駅日比谷口より徒歩1分、東京メトロ千代田線・日比谷線・都営三田線日比谷駅A3出口より徒歩3分、東京メトロ有楽町線有楽町駅D2出口より徒歩3分
料金:無料
ファシリテーション:竹中香子

協力:有楽町アートアーバニズム YAU, 一般社団法人ベンチ
 
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フランス語に【pénétrer】という動詞がある。主に他動詞としてよく耳にするこの動詞は、以下のような意味を持つ。
【pénétrer】[他動]
➊ …に入り込む,浸透する.
➋ 〔寒さなどが〕…の身に染みる;〔感情などが〕…を満たす.
➌ 〔思想,流行などが〕…に広がる,行き渡る.
➍ 〔秘密など〕を見抜く,洞察する.
➎ 〔男性器〕を挿入する.

私は多岐にわたって、この【pénétrer】が苦手である。自分ではない「なにか」が自分の身体の中に侵入してくることに非常に脅威を感じる。
しかし、私が、俳優として、誰かが書いた文章や、誰かの気持ちを「台詞」として、自分の身体を用いて「語る」ことは、この【pénétrer】的な行為に他ならない。

フランス語には、「代名動詞」というものがあり、ほとんどの動詞に適用される。詳しい説明は割愛するが、「代名動詞」とは、「代名詞」とセットになった動詞のことで、「目的語の代名詞」がセットになっている動詞をさす。
【pénétrer】の場合、以下のように変化し、意味も変わる。
【se pénétrer】[代動]
➊ 〈se pénétrer de qc〉(思想など)を確信する.  深く理解する.
➋ 混じり合う.

【pénétrer】が【se pénétrer】になった途端、一気に、心地よさが増し、異物に対していただいていた「恐怖」が消えるのである。
他者の言葉を自分の身体を使って語ることは、そもそも非常にスキャンダラスである。
この事実を、俳優の仕事という理由だけで、できて当たり前のことと捉えるのは非常に危険である。
あえて、他者の言葉を語るということのスキャンダルを前提に、「他者」が侵入してくることの気持ち悪さと心地よさを検証していきたい。


竹中香子プロフィール;
2011年に渡仏し、日本人としてはじめてフランスの国立高等演劇学校の俳優セクションに合格し、2016年、フランス俳優国家資格を取得。パリを拠点に、フランス国公立劇場を中心に多数の舞台に出演。2017年より、日本での活動も再開。フランスの演劇教育や俳優のハラスメント問題に関するレクチャーやワークショップを行う。2021年、フランス演劇教育者国家資格を取得。主な最近の出演作に、市原佐都子作・演出『マダム・バタフライ』『Madame Chrysanthemum』、太田信吾作・演出『最後の芸者たち』。太田信吾との共同企画、映画『現代版 城崎にて』では脚本を担当。2022年度KIACレジデンスアーティスト。2023年より、太田信吾監督作品を扱う映像制作会社ハイドロブラストのプロデューサーに就任。近年は、演劇の創作現場における日仏通訳を多数受け持つ。

 

主催:ハイドロブラスト 

info@hydroblast.asia

090-6340-3640

 

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